課題図書への過大評価
皆さんの中には、小学校の夏の宿題に青少年読書感想文全国コンクールの読書感想文を書いた覚えのある人は多いでしょう。このコンクールは全国学校図書館協議会が、読書活動の振興を目的に1955年から毎年行なっているもので、個人ではなく学校単位で参加し、校内審査、地区審査、都道府県審査を経て中央審査会では内閣総理大臣賞まであるという大がかりなものです。ではなぜ読書活動の振興が目的の趣旨なのに読書感想文を書かせるのでしょうか?それはただ単に、ちゃんと本を読んだかどうかの証拠が欲しいからです。どうせ証拠を提出させるなら全国規模のコンクールにしてしまおうというわけです。しかも応募の感想文が盗作であることを防ぐ意味で、過去一年間の新刊の中から「課題図書」を選び「審査する都合上なるべくその本の感想文を提出してくれると助かる」としたわけですので、けして「ここ1年の新刊の中から最も優れた児童書」として選んだわけではないのです。しかし、課題図書に選ばれた本は、コンクールに参加する小学校の図書室に複数冊置かれるし、先生からブックリストは渡されるし、全国の書店では夏休みの間中ずっと目立つ棚に置かれるので、桁違いに売れます。しかし課題図書がきっかけでロングセラーになった本というのはあまり聞いたことがありません。「あとで感想文を書かなければならない」と思って本を読むのと「ただただ読みたいから」本を読むのとでは、その本の印象がまるで違ってくるのではないでしょうか。
僕が大学時代の友人に「私は小学生の時、読書感想文のプロだった」と言う者がいました。毎年毎年コンクールの上位に入賞していたと言うのです。友人曰く「入賞しやすい文章の書き方があってそのコツさえ身につければ楽勝だった」そうです。
読書は楽しみのためにあります。だからこそ個人の楽しみに学校が深く関わろうとするのは止めてもらいたいものです。もし読書活動の振興を目的にするのでしたら、ブックトークの出来るスタッフを多数育成するべきだと思うのです。
